第4回 ドイツ・ニュルンベルクスポーツユーゲント国際交流派遣事業を終えて
引率指導者 小 出 利 一
【充実した交流と号泣】
2008年8月11日(月)午前8時(ドイツ時間)、ニュルンベルク中央駅をICE728号のドアが閉まった。それと同時に、派遣された団員が今までよりも大声で泣いている。まさしく号泣という表現がピタリと当てはまり、体を震わせて大粒の涙を流している姿が今回も見られました。
この号泣している姿こそ、ニュルンベルクとの青少年国際交流事業の意義であると私は考えています。今回も過去もこの事業に参加した誰もが、ニュルンベルクのみなさんの心優しい受入とホストファミリーにおける生活の充実感が号泣となって表現されたと感じるからです。今回は、駅のホームで各ホストファミリーのみなさんや交流してきた青少年がお互いに泣いている姿が印象的でした。いつもクールに見送る人が多いのですが、今回はホストファミリーのお母さん達の多くが泣いている姿が見受けられ、今回の派遣団員がホストファミリーのみなさんに心から愛されていたことを感じてうれしく思いました。
【素晴らしいチームワークの派遣団員】
今回の派遣団員7人は、過去の派遣団員と大きな違いがありました。全員が女性であり、大学生から中3までの年齢もバラバラ。しかも、大学生2人が金沢と東京に住んでいることから全員が一緒に研修することができない状態でした。このような状態で今回の派遣団員の心を一つにするために初めて「成田空港前泊」を行い、この交流の意義とグループのまとまりの大切さを伝え、各自の役割を明確に伝えました。
大学生の亜弥をリーダーとして恭子をサブリーダー、あい菜はプレゼント配付を中心とした私のマネジャー、有紀は英語力でみんなのサポート、菜摘、利奈、乃愛は積極的に動くことを指示しました。この役割分担を、7人が見事に果たしたことが今回の交流を成功に終わらせた最も大きな要因となりました。
特に亜弥と恭子のコンビは、本当に素晴らしい活躍だと感謝しています。亜弥がしっかりお姉さん役となり、恭子はみんなを和ませてリラックスさせる自分の性格を良く理解した行動で他のメンバーはとても楽しくリラックスして慣れない海外での生活を過ごせたと思います。亜弥と恭子は、幼稚園に入る前から私の母が可愛がっていた子でしたから、この姿を見ていてたくさんの出来事を思い出して立派に成長したことをうれしく思い(育てたご両親に感謝)、頼もしさを感じました。
あい菜のマネジャー役もさすがに高校野球のマネジャーを3年間続けた人らしく、自分の役割をしっかりとわきまえて、毎朝必ず「プレゼント用の袋を持ちます。小出さん今日のプレゼント配付先は?」と確認してくれました。交流が深まると自分が楽しむことを優先しても仕方ない状況になるものですが、あい菜は自分も楽しみながら自分の仕事を忘れることはありませんでした。本当に見事でした。
有紀の英語力は、中3の2人を中心に終始みんなをサポートしてくれました。特に、帰りのフランクフルト空港のハプニングでは見事に亜弥をあい菜と一緒になってサポートして素晴らしい判断で自ら行動できたことに感心しました。
菜摘は、一人だけニュルンベルクとは約25km離れたエアランゲンのユリア宅に受け入れられていたハンディを感じさせないパワフルさで持ち前の行動力によって中3の2人を引っ張り続けてくれました。菜摘の明るく積極的な行動が、恭子の勇気も引き出したと感じています。
利奈は、昨夏に経験した沖縄交流の経験を積極に活かしていることを感じさせる行動でした。何よりも食べ物に対して積極的に挑戦する姿はニュルンベルクの青少年から高く評価されていました。
最も心配したのは乃愛で、長野県東御市に在住ということから今回初めて他の6人と一緒の生活になりました。まず、亜弥達と馴染めるのかを心配していましたが、菜摘達の明るさから前泊だけですっかり仲良くなってもらえ、部活でやっていた剣道を武器にニュルンベルクでも剣道の交流をただ一人でやり遂げたことは立派でした。
今回も、誰一人体調を崩すことなく最後までパワフルに明るく交流する伝統を続けてくれました。ドイツへ来てから初めて揃って踊ったソーランも見事な踊りでした。
本当に素晴らしいチームワークで、気持ちが良い派遣メンバーで引率指導者にとって本当に誇らしく感じました。7人のメンバー見事でした。「ダンケシェーン」
派遣団員の素直な気持ちが表現されている「交流日記」を読んでいただけると、チームワークの良さが理解できます。この交流日記は、毎日、派遣団員が1人1日として書いたもので、今回が初めての試みでした。
【プログラム全般】
4回目のプログラムは、青少年が企画運営する方法が定着したこと感じました。今回は、マルクス君とヨハネス君(以下、ヨー君)が中心になって素晴らしい企画運営をしてくれました。
派遣された団員と保護者のみなさん、今回も私たちは、特別待遇を受けたことに感謝しましょう。ミュンヘンのアリアンツスタジアムの見学も選手ロッカーやVIPルームは通常は入れません。また、ニュルンベルク動物園も園長さん自ら案内をしてくれました。こんなことは、通常絶対にあり得ません。ノンシュバーンシュタイ城も5ヶ月前から予約して朝一番で見ることができました。オープンエアークラシックコンサートは、私たちを良い場所で聴かせようとホストファミリーのみなさんが、20時開演に対して15時から場所の確保をして待っていてくれました。
(1) スポーツ&クラフトプログラム
@ 市内オリエンテーリング
ニュルンベルク市を案内する最初の市内オリエンテーリングは、毎回、初めて訪れた青少年にとって大切な時間になっています。歩きながら食べたグループもあったと思いますが、みんなで楽しみながら古都を歩くことは交流を始める最初のプログラムとして重要だと改めて感じました。
A ボート体験
初めてでしたが日本では体験することが容易ではないプログラムで、しかも体を動かして体を疲れさせることができるので時差による体調不良になることを防げる有効なプログラムだと感じます。
B ヨー君とマルクス君の指導によるスポーツプログラム
ヨー君が指導したスポーツプログラムは、わかりやすくアクティブに動くもので大好評でした。さすがに狩猟民族らしく獲物は逃さない意識が高く、たとえ鬼ごっこでも全力で逃げて全力で捕まえる姿に感心するとともに勝負強さの源を見た思いでした。マルクス君指導のレクは、フッセンユースホステルで行われたゲームでした。これは、自己紹介ゲームとして少人数で実施したら楽しいものです。この2人の指導力は、素晴らしいものと感心しました。
C 「ホイホイ」作成のクラフトプログラム
今回初めて、クラフト活動がプログラムに入りました。振動を原理にした、プロペラを回転させる単純だけど面白くみんなで協力して各自が作成して遊べるプログラムで大好評でした。これは、新町でも真塩指導者ができそうで良いお土産になりました。
D ホフサイガーデンのターザンローププログラム(写真を参照)
前回のプログラムを発展させた凄い内容で、恐怖感との戦いを新町とニュルンベルクの青少年が助け合いながら突破していくプログラムで素晴らしいプログラムでした。
E ボーリング交流プログラム
これも今回初めてのプログラム。昨年、新町で楽しんだことがきっかけになったようです。ボーリングが上手とか下手はどうでもよくて、みんなで喜んで、みんなで残念がる凄い盛り上がりになりました。しかし、20時過ぎのボーリング場に小学生の姿はなく、14歳の団員については保護者を確認されました。こうした商売抜きの青少年育成の姿が勉強になりました。
(2) 文化歴史関係プログラム
@ ナチスドイツ歴史博物館見学
この青少年国際交流プログラムの一つのメインと考えているプログラムです。第二次世界大戦の過ちを繰り返さないために、ドイツとしては陰の部分に自ら光を当てて過去の過ちを知ることの大切を感じる時間です。派遣された団員達からは、私たちも正しい戦争についての歴史を学びたいという声があり、理解してもらえたことをうれしく感じました。日本語ガイドレコーダーがあるともっと良く理解できるのですがないことが残念です。
A ニュルンベルク動物園見学
新町よりも広い、行動展示の元祖みたいな動物園で今年は白クマの子どもが誕生したことで世界中から注目を浴びた動物園です。この動物園を園長自ら案内をしてもらい、動物園が最も大切にするべきことは「自然を守ることであり、動物を展示することではない」という言葉が胸に響きました。白クマの子ども「フロッケ」は大人気でした。園長から新町のメンバーにサプライズがあり、ニシキヘビを展示ケースから出して生態を教えてくれて、全員の首に巻いてくれる特別な体験をさせてくれました。
子ども達が遊ぶ「アスレチック遊具」は、凄い迫力がある急角度の滑り台を含めたもので、危険がいっぱいのものでした。日本のように「危ないからやらせない」のではなく、小さいときにバランス力を育てることが大切であることを知っていて、ふざけないで真剣に遊ぶことでバランス力を養い、危ないことを知る教育をしていることを学びました。
B ミュンヘン&ノンシュバーンシュタイン城見学
日本人観光客がたくさん訪れるドイツを代表する観光地。私は7回目の訪問で初めて訪れたことからミハエルやドリスに冷やかされました。
豪華な内装、おとぎの国のような外観、当時のバイエルン王国の財政を破綻に追い込んだ道楽的な城作りが現在のバイエルン州にとって貴重な観光資源になっている皮肉。しかし、見る者全てを魅了する景色にマッチしたお城の数々でした。日本人がたくさん行く理由が理解できました。
【まとめ】
今回の訪問で、日本における公認スポーツ指導者に対するサポート体制が全く整備されていないことを痛感しました。私は、この国際交流事業を引率するために13日間という日本のサラリーマンとしては異例の長期休暇で参加しています。しかし、ドイツでは、公認スポーツ指導者が青少年健全育成のために休む場合は年間3週間のボランティア休暇が付与されています。こうして、国として青少年の健全育成に携わる指導者をサポートしています。日本はどうでしょうか?「子どもの体力の低下の防止」とか「外遊びをしよう」とか言っていますが、それを指導しサポートする地域の大人に対するサポートはなにも整備されていません。ボランティアとは、何も「介護や看護だけ」ではないのに、未だに何も整備されていないのです。お金だけを用意してもまともに政策を実行できるはずがありません。確かに、お金も必要ですが、もっと現場で活動する指導者をサポートする政策が必要です。
今年もドリスとミハエルと若いマルクス君とヨー君が中心になって私たちへ充実したプログラムを提供してとても満足した青少年国際交流事業が実施できました。私は、常にニュルンベルク市のみなさんへ感謝しています。この交流を始めるきっかけを作ってくれたギュンター夫妻と再会できなかったことだけが残念でしたが、新しい出会いもあり、また、ニュルンベルクを好きになりました。
この素晴らしいニュルンベルクの青少年を2年後の夏、新町でお迎えしましょう。 そして、10月に新婚旅行で来るドリス夫妻を今までドイツでお世話になった人達、みんなで大歓迎しましょう。
私は、いつの日か「大人のニュルンベルク訪問」を実施したいと思います。子ども達だけが知るのではなく、私たち世代も素敵な国と街であるドイツのニュルンベルク市を訪問しましょう。
最後に、この青少年国際交流派遣事業を実施する際に大変にお世話になったみなさんと団員を派遣してくれた保護者のみなさんへ感謝して報告を終わります。
心から「フィーレンダンク(ありがとうございました。)」